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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1429号 判決

控訴人 乙山花子

右訴訟代理人弁護士 伊藤まゆ

同 丸井英弘

被控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 高野長幸

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、読売新聞朝刊全国版の下段広告欄に二段抜きで原判決別紙記載の謝罪広告を、見出し、宛名および控訴人の氏名は四号活字をもって、その他は五号活字をもって一回掲載せよ。

被控訴人のその余の請求および控訴人の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを四分し、その三を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し金三〇〇万円及びこれに対する昭和五一年一月二六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は左のとおり訂正するほか原判決事実摘示(原判決三枚目表一〇行目から一二枚目裏末行まで)のとおりであるから、こゝにこれを引用する。

一  原判決三枚目裏一〇行目の「慢然」を「慢性」と訂正する。

二  同四枚目表四行目の「虚為」を「虚偽」と訂正する。

三  同五枚目裏三行目の「原告」を「控訴人」と訂正する。

四  同七枚目表九行目及び一〇枚目裏一〇行目の「催眼」を「催眠」と訂正する。

五  同一〇枚目裏五行目の「五〇」を「四九」と訂正する。

理由

一  被控訴人の請求について

被控訴人の控訴人に対する請求(本訴請求)については、当裁判所は慰謝料に関する部分を除き、原判決と同一の判断をなすものであって、その理由は次のとおり加除訂正するほか原判決理由説示(原判決一四枚目表二行目から二九枚目裏五行目と同一であるから、こゝにこれを引用する。

(一)  原判決一五枚目表五行目の「愛人関係」から同七行目の「ができ」までを「愛人関係及び右認定事実を述べたことが認められ」と訂正する。

(二)  同一六枚目表六行目の「甲第三号証、」の次に「証人春山光輝、同森本忠良の各証言、」を加える。

(三)  同二〇枚目裏八行目の「しかし」から同末行の末尾までを削る。

(四)  同二一枚目裏二行目の「新宿保険所長」を「新宿保健所長」と訂正する。

(五)  同二二枚目表九行目の「被告方を訪問し、」を「控訴人と面接し、」と訂正する。

(六)  同二二枚目裏九行目の「そうして」から二三枚目表一行目の「できる。」までを削る。

(七)  同二四枚目裏四行目の「真事性」を「真実性」と訂正する。

(八)  同二八枚目表二行目の「前記」から同四行目の「疑問があること」までを「東京医科大学の右診察の結果作成された診断書は、証人野原義次の証言によれば、控訴人から勤めの関係で休みを貰うのに必要であると言われて作成されたものであり、その当時の症状等から主たる病名が記載されたにとどまり、慢性気管支炎であるか否かについて焦点を合せて診断を求められて作成されたものではないと認められること」と訂正する。

次に被控訴人の慰謝料の請求について検討すると、控訴人の読売新聞記者に対する情報提供等が、被控訴人と控訴人との男女関係のもつれに端を発してなされたものであるばかりでなく、被控訴人作成の診断書が、診察に基かずに作成されたものでないことは前記認定のとおりであるとはいえ、その診察及び診断書作成の行為が、愛人関係と医師患者関係との区別の截然としないあいまいな情況下においてなされており、この点被控訴人に医師としての節度に欠けるところがあったことは否定し得ず、またそのことが虚偽診断との疑惑を招いて本件新聞報道等がなされる一因となっているものと認められるのであって、これらの報道には被控訴人自らが種を蒔いたと評価すべき面が多分にあるといわなければならない。そうすると、被控訴人の受けた本件名誉毀損に対しては、損害賠償に代えて、対外的に名誉が回復されるための最小限度の措置がとられゝば十分であるというべく、したがって控訴人に前記のとおり読売新聞への謝罪広告の掲載を命ずればこれをもって足り、これに加えて控訴人に対し慰謝料として金銭の支払を求める被控訴人の請求は失当であって棄却すべきものである。それゆえ原判決中、被控訴人の慰謝料の請求を認容した部分は相当でないのでこれを変更する。

二  控訴人の請求について

控訴人の被控訴人に対する請求(反訴請求)については、当裁判所も原判決と判断を同じくするものであって、その理由は次のとおり訂正するほか、原判決理由説示(原判決三〇枚目表一行目から四二枚目表四行目まで)と同一であるから、こゝにこれを引用する。

原判決三六枚目裏六行目から一〇行目までを削り、末行冒頭の「(5)」を「(4)」と訂正する。

三  よって原判決の一部を変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 鰍澤健三 裁判官 枇杷田泰助 佐藤邦夫)

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